Deep Affection フラッシュバックの果てのタブー

神谷 幸弥(さや)

2019-03-27
交際期間
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 私の声が通りの向こう側まで届いたのか、弟の名前を呼ぶ大きな声が聞こえた。

「おーい、悠斗!」

声がしたほうへ目をやると、話し込んでいる弟の姿が見えた。

「ユウっ!」

弟の側に駆け寄ろうとしたが、水の中を歩くように身体がふらふらとして前へ進めず、その場にへたり込んでしまった。

「どうしたんだ?さっきから変だよ」
私の腕を掴むS男。

「離してっ!」
振り払おうとしたが、S男は私の腕を掴んだまま立てと言わんばかりに引き上げた。

一刻も早くS男の側から離れたくて、イヤイヤをするように頭を振った。

「いい加減にしろ」
痛いぐらいの強い力で私の腕を掴み、離そうとはしないS男。

変質者のことがフラッシュバックして、意識を手放す寸前になっていた時……

「いい加減にするのはアンタのほうだろ。嫌がってんのが分かんねぇのかよ。この手を離せ!」

駆け寄ってきた弟がS男の手首を捻るように掴んだ。S男の手が離れたのを確認した弟は、支えるように私の背中に腕を回した。

ユウっ……弟の名前を呼ぼうとしても、ぱくぱく口が動くだけで声を発することが出来なかった。

「大丈夫……なワケないよな」
子供をあやすように弟の手が私の頭を撫でた。

「いきなり失礼じゃないか。誰だ?あんた」
訝しげな視線を弟に浴びせるS男。

「誰だって良いだろ。それより帰って休ませないと。電車じゃムリそうだし、タクシーを呼んだほうが良いか……」
S男には構わず、帰る段取りをする弟。

「タクシーを呼ばなくても、ユキミさんは自分が送ってくから、無関係なあんたは引き取ってくれ」

「関係なくねぇよ。まぁ、送ってくんだったら車を此処まで回してくれ。こんな状態のコイツを駐車場まで歩かせるワケにはいかねぇし」

しばらくの間、2人は押し問答を繰り広げていたが、S男は弟に押し切られ腹立たしそうな表情で車を取りに行った。


 10分程度経った頃、S男が運転する車が目の前に止まった。支えるように私を後部座席に乗せた弟は、そのまま車に乗り込んだ。

「あんたまで乗る必要ない。降りてくれ」

「アンタにはコイツを任せておけねぇんだよ。それに俺がいなきゃ道が分からねぇだろ」

「寮までの道ぐらい知ってるんだが」

「行き先は寮じゃなくて家のほう。アンタ知らないだろ」

「家ってユキミさんの?」

「あんた、さっきからコイツのことユキミって言ってるけど、ユキミって誰だよ。付き合ってるって気持ちがあるんだったら名前ぐらい覚えろよ」

吐き捨てるように言い放つ弟の言葉を聞き、首を傾げ私のほうに纏わり付くような視線を寄越すS男。追い打ちをかけられたように、吸っても吸っても空気が入ってこず、呼吸が速くなり息苦しさのあまり弟にしがみついた。

「サヤ?」異変に気付いた弟が顔を覗き込む。

「息が……」

「苦しいのか?」

声を出せずに頷いた。

「落ち着いて。ゆっくりと深呼吸して」

「胸が……痛くて……出来ない……」

「サヤ、ちょっとゴメン」
ブラウスのボタンと、ブラのフロントホックを外された。

胸元の圧迫感から解放されたものの、息苦しさは変わらず呼吸が荒くなっていった。

「サヤ、目を瞑って」

言われた通りに目を瞑ると、柔らかいものが唇を塞いだ。伝わってくる息遣いから、それが弟の唇だと気付いた私は両手で弟を突き放そうとした。が、その両手は弟の手に包むように握られ、されるがままになっていた。

2〜3分位経った頃には、息苦しさは治まっていた。

「ゴメン、ちょっと荒療治だった。こういうことお前にしたのってガキの頃以来だな」

照れ臭そうに笑う弟の顔を見ると、責める気分にはなれなかった。と、同時に運転席で様子を覗っているS男のことが気掛かりになった。


S男と一緒にいる限り、今日みたいな思いをすることは避けられそうにない。

S男とは別れよう・・・
そう決意した。が、私の知らない所でS男の策略が進められていた。


お読みくださり、ありがとうございます。

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