Love Buddy 垣間見えた彼の心

神谷 幸弥(さや)

2019-01-10
恋愛ヒストリア
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ハンドルを握ったMは私を見ることなく、淡々と話を続けた。

お前は知らないだろうけど、俺達が受けたステップ1の研修、実は社員全員が参加したんだよ。現場の連中もな。

え…うそ…?
そんな風には見えない。

俺以外は初日で投げ出して戻ってきたからな。多分、内容が自己啓発セミナーみたいな感じだったから反感を持ったんだろうな。

あ~、分かる気がする。シラケるんだよねぇ。

まぁ、押し付け感が半端なかったからな。それを俺が最後まで受講してきたもんだから、皆とギクシャクしたんだよ。

それって、Mがハブられてたってこと?

こいつは社長の言いなりだから、シカトしようぜって感じな?

社長って、そんなに敵対視されてたの?

経営者側と従業員って立場が逆だし、対立してる所も珍しくはないんじゃないか?

あ~、確かに…。

だろ?

うん。ん…?あれ…?
何、この察しの良さ…。
私が一言も話してないのに、何で会話が成り立ってんの?

ねぇ、私、声に出してた?

いや、俺が独りで喋ってた。

でも、今、だろ?って。
それだけじゃなくて、私が思ったことにタイミング良く反応してたよ?

あー、何となく言われてる気がしたからな。すまん、ちょっと一服。

車のスピードを落とし道路脇に停めて煙草に火をつけるM。

暗がりの中で煙草に火をつける男性
※イメージ画像/ぱくたそ(www.pakutaso.com)モデル:大川竜弥

車内に嗅ぎなれたピースタバコの匂いが漂う。この頃には彼が吸っている煙草の匂いに、何故か安心感を覚えるようになっていた。

私にも1本頂戴。

これ辛いぞ。良いのか?

何を隠そう、実は喫煙歴があるんだよねぇ、私。受け取った煙草に火をつけ吸ってみた。

ゲホッ…ゴホッ…

ほら見ろ。お前にこれは無理だよ。

私の指から煙草を取り上げ、そのまま咥えるM。

それ、私の吸い止し…

一口しか吸ってないんだから、このまま捨てたら勿体ねぇだろ。

わわっ!か…か…間接キスだよ…。
めっちゃ恥ずい…。
もしかして、今、私の顔、赤くなってる?

吸い終わると、Mは素知らぬ顔で再び車を走らせた。

でさ、ギクシャクした雰囲気を丸く収める為にステップ2を受講するのは辞めて、自発的に手伝いに回るようにしたんだ。それからだな、社長に叱られるようになったのは。そんな時にお前が入ってきたんだよ。入って間もないのに社長に食って掛かるお前を見て、正直、とんでもない女が来やがったと思った。

うん。自覚してる…

けどよ、現場作業もしているお前がステップ1を修了しただけじゃなくて、次に進むってことを社長から聞かされた時、お前も俺みたいに現場で浮くんじゃないかって心配で仕方がなかった。だから、社長に許可をもらって、なるべくお前と一緒に仕事をするようにしたんだよ。

道理で、いつもMとコンビを組むことが多かったわけだ…。

俺もステップ2に進むのを交換条件にな。

何で…そこまで…?

さぁ…何でだろうな…
とにかく、放っておけなかったんだよ。お前のことがな。
さ、着いたぞ。

話し込んでいる内に車は自宅に着いていた。もっとMと話していたい気持ちを抑え車から降りた。

ごめんな? ユキ。
皆の前で、あんなことを言わせるつもりなんて無かった。俺が間違ってたんだよ。いつまでも道化のふりをしたり、事なかれ主義をやってる場合じゃねぇよな。じゃないと、お前のそばにいる資格がない。

降り際に聞いた声はとても辛そうに聞こえ、切なくてたまらなくなった。

ねぇ、M、私も同じだよ?
私も貴方を放っておけないよ…。

追い掛けたくなる衝動に耐えながら、走り去る彼の車を見送った。


今回はこの辺で…

お読みくださり、ありがとうございます。

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