Without Love がんじがらめ

神谷 幸弥(さや)

2019-04-30
婚約期間
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 S男との今後について考えがまとまらず中途半端な気持ちのまま、弟が運転するバイクの後ろに乗せてもらい寮に戻った。

「送ってくれて、ありがと。帰り、気をつけてね」

「あ、あぁ……」

ひらひらと手を振りながら弟を見送っていると、同期入社の女子社員達がわらわらと近付いてきた。

「ちょっと、ちょっと、この人、誰?」
「新しい彼氏?」
「それとも、こっちが本命?」

――あー、始まった……

女子会トークが苦手な私は、キャーキャーと盛り上がる彼女達の前を苦笑しながら、軽く会釈をして通り過ぎた。



 翌日、平常通りに出勤し毎週月曜日に行われる全体朝礼に向かうと、その場の雰囲気に何となく違和感を覚えた。

――んん……?

意識して周りの様子を窺ってみると、数人が集まり私を見ながらコソコソ言っていることに気が付いた。

――なんか嫌な感じ。私、何かした?

腹立たしく思いながらも、平然を装い朝礼が終わるのを待っていた。

「以上で今週の業務伝達は終わりなんだが、今日はおめでたい話がある」

――おめでたい話?

「あー、既に知っている人もいると思うが、○○課のS君と神谷さんの結婚が決まったそうだ。皆で拍手をして祝ってやってくれ」

湧き上がる拍手と「おめでとう」の言葉。

――なっ……

自分の名前が出たことと、昨日の今日だというのに、話が進んでいることに愕然とした。



 朝礼が終わり、所属する部署に戻るやいなやS男に詰め寄った。

「さっきのアレはどういうこと?」

「どうせなら、皆に知ってもらっておいたほうが良いだろ」

「私、まだ結婚するとは言ってないはずよ」

「しないとも言わなかった」

「確かに言わなかったけど……」

「断らなかったってことは、する意思があるってこと。なければ直ぐに断るはず」

「何、その屁理屈」

「『善は急げ』と言うだろ。それに、あの小僧を牽制しとかないと」

「小僧ってユウのこと?」

「他には、いないだろ」

「だったら、牽制する必要なんてないわよ。だって、ユウと私は……」
――結婚出来る間柄じゃないし、結ばれることもない……

「同じ家に住んでて、しかもユキミさんの初めての相手。そんな男を気にするなっていうほうが無理。だから先手を打った」

――ここまで大事にされたら、断るに断れないじゃん。

「分かったわ。でも10代で結婚するのは嫌。せめて二十歳を過ぎてからにして」

「婚約さえ済ませておけば、それでも構わんさ」

S男の言葉を聞き、引き返せない状況に置かれているのだと知り、その抜け目のなさが空恐ろしく感じた。



 社内全体に知れ渡って以降、私は籍を入れる前から「S男の奥さん」と呼ばれるようになり、独身者限定の女子寮に居づらくなり退寮することにした。 

しかし、就職して半年足らずで未成年の私には、土地勘のない場所でアパート等を探すことは叶わず、S男の家で暮らすことになった。

S男の家は、コンビニやスーパーはなく、バス等の公共交通は走っておらず、移動には車が不可欠な街とは離れた山間部に建っていた。徒歩圏内に医院やスーパーがある自宅で育ってきた私には、S男の家での暮らしは不便極まりなかった。

なにより『休日は出掛けず家にいるもの』であり『外食は無駄遣い』という家風に馴染めなかった。

私が同じ家にいることによって、S男は休日に外出することがなくなり、私は会社にいる時以外はS男の家から出ることがなくなった。というより、車を持たない為に自由に出入りすることが出来なかった。

――ユウっ……会いたい……息苦しいよ……

毎日のようにS男の母親から「早く孫の顔を見たいものね」と急かされ、S男には相変わらずの一方的な行為を強いられ、私は窮屈で不自由な暮らしに辟易していた。

お読みくださり、ありがとうございます。

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